2012年6月1日金曜日

0615


0615

6月15日(木)

この日は朝の最初の講演がMcMullenだったので朝から大学に出かけました。天気が良く朝から結構暑かったように思います。

C. McMullen, The shape of the moduli space of Riemann surfaces,

内容的には去年の秋の学会の時に広島大学で講演したのとほぼ同じでしたが、今回の講演の方が遙かに分かりやすかったように思います。moduli spaceの普遍被覆空間であるタイヒミュラー空間は、タイヒミュラー距離(=小林距離)という完備な距離を持っているので、複素解析的にはmoduli spaceは「双曲的」と思える一方で、moduli spaceの"基本群"は写像類群であり、Dehn twistとして階数 3g-3 のAbel群を含んでいることから、(0から離れた)負曲率空間ではあり得ず、リーマン幾何的には「双曲的」とは思えないわけです。これをうまく説明しているのがGromovが提唱するKahler双曲的という概念で、McMullenはこれを"正則な方向には双曲的"というように表現していましたね。今回の講演の主定理はmoduli空間がこのKahler双曲的であるというGromovの予想を解いたというものでした。

N. J. Hitchin, The geometry of three-forms,


数学のパイを発見した人

もちろん私の専門外ですが、ぜひ顔くらいは見ておきたいということでそのまま講演会場に残って聴いていました。2-formは例えばVector bundleの接続の曲率として現れますが、3-formもその1ランク上の概念と言えるgerbの接続の曲率として自然に現れるということを中心にした、わりとsurvey的な内容の講演でした。ちなみにgerbというのはフランス語が起源だそうですが、私は意味がよく分かりませんでした。(英語で「シー」と言っていましたが、海という意味のseaなのか他の単語なのか見当がつきません。なにしろ説明していたときに会場から笑いが起こったものですから。私にはjokeの意味が理解できませんでした。)

昼食後はパラレル・セッションになります。なお、昼食はbuffet形式でしたが、調子に乗って食べ過ぎると太ると思って適当にsaveしながら食べていたので、あれで1000円くらいかかっているのかと思うとちょっともったいなかったかな?なお、飲み物はコーヒー・紅茶以外は実費を払って飲むということで、売り子のお姉さんが出てビールやジュースなどを売っていました。結構ビールを飲んでいる人も多かったです。私はさすがに遠慮しておきましたが。昼食などについては、お金をあらかじめ支払った人のみが食べられるということで、クーポン券を登録時にもらっていたのですが、実際にチェックされたことは(他のエクスカーションやディナーも含め)一度もありませんでした。

A. Nicolau, Iner functions and hyperbolic area function,


セントヘレンズマウントは噴出した方法

上半平面上の調和函数のDirichlet積分は、それを実部に持つ正則函数の像領域のユークリッド面積(の1/2)とみなせますが、それを単位円板から単位円板への正則函数として、ユークリッド面積の代わりに双曲面積にした時に、やはり非接極限の存在が通常のFefferman-Stein理論と同様にして示されることや、the law of iterated logarithmが同様に成り立つことなどが説明されていました。なお、これはM. J. Gonzalezとの共同研究とのことでした。

次のAlemanの講演はぜひ聴きたかったのですが、少し後にMilnorの講演が控えていて、なおかつ「正則函数の線型空間」のセッションは前の黒板の横にしか出入り口がないので、一旦始まると非常に出にくい、ということであきらめて最初から聴きませんでしたが、ちらっと顔だけは見てきました。まだ比較的若い人のようですね。

J. Milnor,

タイトルはよく分かりませんでした。d次多項式のなす(d-1)次元空間の中で、全ての周期点が反発的であるようなパラメータ全体と、(visible) shift locusとの関係を、critical valueに着地するexternal rayとの関連から調べるというようなことのようでした(例えば、rayが極限を持つかどうかなど)。最初に J. Kiwi (Chile)の名前を挙げていたので、たぶん彼との共同研究か何かだと思います。ただ、ほとんど黒板に主張らしいことを書かず、英語もかなり聞き取りにくかったので、私にはさっぱり理解できませんでした。少なくとも、良くorganizeされた講演とは思えませんでした。なお、講演は予定通り(?)人があふれそうだったので、会場を広いところに移して行われました。力学系のセッション以外からもわりと多くの人が見に来ていたようで、顔だけ見に来たという人が多かったのでしょう。

A. Douady, One-sided diophantine condition, after Gamaliel Ble,


5素数は何ですか?

Milnorの講演が終わるとDouadyは「会場の移動だ」と言って勝手に元の講演会場に戻ってしまったので、他の人たちも仕方なく移動(^_^;) (別にそのままその会場でやっていても良かったと思うんだけど。) 前の日の後半はDouadyは講演の準備をすると言ってセッション会場から出てしまっていたくらいでしたが(実際に、会場の外の机で考えていました)、確かによく準備されていた講演だったと思います。私にはあまり理解できなかったことに変わりはないですが(苦笑)。この日の主な主張は、Mandelbrot集合のmain cardioidに角度θで着地するexternal rayに対して、θ/2+1/4に対応するexternal rayがMandelbrot集合の部分集合 [-2,-3/4]に着地するための必要十分条件を与えるというものでした。それがone-sided diophantine conditionというもので、いわゆるディオファンタス条件の不等式の片方を落としたような形の条件のようです。これは彼の学生だったBleというメキシコ人が最初に与えた概念ということで、彼の名前が講演に出ているようです。

J. Graczyk, Poincare series and invariant measures in Complex Dynamics,


彼はOHPで講演をしたのですが、彼としては聴衆に分かりやすいように条件などはわりとおおざっぱな書き方をして本質的なことを伝える方に重点を置こうとしていたようでしたが、細かいところをMcMullenらが指摘するものですから、非常に講演がやりにくそうでした。内容は、Julia集合がある意味で「ほとんど」Hausdorff次元が2より小さいということを示す、という彼とSmirnov, Swiatecらの共同研究の紹介でした。Mandelbrot集合の境界に関して、「Hausdorff次元は2」、「位相的な意味でgenericな点のJulia集合はHausdorff次元が2」という宍倉さんの有名な二つの結果を紹介すると、McMullenが「Hausdorff次元が2であるようなJulia集合を持つような(Mandelbrot集合の境界上の)点全体はHausdorff次元が2か?」という質問をしたのですが、彼は「宍倉さんと同じ方法でやれば出来るかもしれないが、分からない」と答えていましたね。

H. Eliasson,

タイトルははっきり覚えていませんが、Quasi-periodic Schrodinger operators とかいうものだったと思います。Graczykの講演が終わったらほとんど皆引き上げてしまったので、気の毒に思って私はそのまま会場にいたのですが、後から遅れて同業者の方々が入ってきたので、私は別にいる必要がなかったような。ともかく、内職に励んでおりましたので、内容は割愛。
 


講演終了後にConference Dinnerがランチなどと同じで、学生用レストランで行われました。ただ、最初にテーブルにサーモンなどがserveしてあり、その後でローストビーフなどコックがserveしてくれるものを取りに行ったり、サラダやパンなど好きなだけ取ってくるというスタイルでした。飲み物はやはり自分で買って飲むということでした。なお、この時は富山さんと同じテーブルで、ワインをごちそうしてもらいました。我々はたまたま隣に座ったイタリア人と色々話などをしてましたね。Dinnerは8時までで、それからはBrannerさんが世話役をやっているらしい、"Publishing mathematics, perspectives and challengings"というspecial sessionが行われるようでしたが、飲み過ぎたのもありますが遅くなるのも嫌なのでさっさと宿に帰って寝てしまいました。
 



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