2012年5月6日日曜日

環境問題、対策 | ドキュメント鑑賞☆自然信仰を取り戻せ!


見渡す限りの大草原が広がる国モンゴル。
一方北部には夏でも雪を頂く3000m級の山々が連なっている。
その麓には豊かな水と緑にあふれた美しい光景が広がっている。
広大なダルハド(Darkhad)盆地に暮らす人々は、2000年以上も前から遊牧生活を営んできた。
モンゴルの広大な草原には、悠久の歴史が刻まれている。

12世紀に現れたチンギス・ハーンはそれまで小さな部族が群雄割拠していたモンゴル高原を統一。
孫のフビライ・ハーンの時代には、東は朝鮮半島から中国全土、西はヨーロッパに及ぶ巨大な帝国を作り上げた。
しかしその後帝国は分裂。
1755年、清朝に支配され、1924年、社会主義国家として独立、1930年代、民主主義国家へ移行。

人口およそ250万人の内、3分の1以上が首都ウランバートル(Улаанбаатар Ulaanbaatar)に住み、現代的な生活を送っている。
しかしモンゴルの人々の基本的な生活様式は遊牧。
環境が異なる地域で、それぞれに特徴的な遊牧生活を送っている。
今回モンゴルを訪れたのは東京大学の月尾嘉男名誉教授。
情報通信が専門だが、世界中を探訪する中で、自然の大切さを痛感。
環境問題の解決に挑戦している。

目指すはウランバートルから北西におよそ1000km、ダルハド盆地。
周囲を3000m級の山々に囲まれ、東京都の面積のおよそ1.6倍もある。
ここは周りの山々から湧き出た水が、沢や川となって集まる場所。
また山々に降り積もった雪が春先には雨をもたらす。
こうした自然が肥沃な草原地帯を育んできた。
この豊かな自然の中で、遊牧生活をしている人々を訪ねる。

サンボーさん(71歳)は子供達や孫、兄弟など6家族、26人と暮らしている。
彼らはゲルと呼ばれる移動式住居に家族単位で住み、助け合いながら生活している。
こうした集団はホトアイル(家族や親類、仲間同士で構成される共同体)と呼ばれている。
所有している家畜は6家族あわせておよそ550頭、育てた家畜の毛皮や肉を売ることで収入を得ている。
毎日行う放牧は当番制。
6家族の中から誰かが交代で家畜の見張りをすることで、仕事の負担が減らせる。
今は夏休みなので、普段は町に住んで学校に通う子供たちも家に戻っている。
モンゴルでは、いつどんな客が訪ねてきてもまずお茶を出すのが習わし。
その日絞ったばかりの牛乳に、直接お茶の葉を入れて作るモンゴル式ミルクティー。

月尾「サンボーさんの一族は、いつごろからここで遊牧しているのですか?」
サンボー「約200年前から。
私の祖先はエルヒードと呼ばれる氏族で、元々はここから南西の方角にある県に住んでいた。
そこにいた老人が7人の子供を連れてこの地に移り住み、その子孫が私達だと伝わっている。
私達は遊牧民なので元々この地に住んでいた人は少ないと思う。
いろいろな場所から人がやってきてここに住み始めたのだ。」

朝4:30、ダルハド盆地に暮らす遊牧民達の夏の1日が始まる。
女性達が牛を囲いの中に追い込むと、子牛達が乳を飲み始める。
吸い始めて乳の出が良くなった頃に子牛を引き離して搾乳。
こうするとスムーズに搾り出せるという。
月尾「1頭からどれくらい搾れるのですか?」
三女ハグワスレンさん「ハイナグから4リットル、ヤクからは1〜2リットルくらい。
ヤクの乳には脂肪分が多く含まれている。」
夏は乳の出が良く、1日に20リットルも搾れる。
乳搾りが終わると牛達は草原へ、好きな場所で草を食べ、日が暮れると勝手に帰ってくる。


調べる方法

次はヤギと羊。
こちらも乳がたくさん出る時期だが、サンボーさんの家では牛から出る乳で家族分が十分まかなえるため、子供にたっぷり吸わせる。
病気や母親が死んで、乳がもらえない子供達には、さっき搾った牛の乳を飲ませる。
牛の角が哺乳瓶の代わり、吸い口は牛の皮で作られている。
授乳が終われば羊とヤギも草原へ。
子供達が1日傍に付き添う。
羊とヤギを一緒に放牧するのは意味がある。
羊は場所をあまり移動しない習性があるため、羊だけでいるとどうしても食べる草が少なくなってしまう。
ところが行動範囲が広いヤギと一緒にいると、羊もつられて移動し、食べる草の量も増える。
しかしあまりヤギが多すぎても羊がそのペースについてゆけず、かえって痩せてしまう。
またヤギは薪の皮も食べるほど食欲旺盛で、草を根元から食べつくしてしまう。
ヤギだけを大量に飼えば、草原の再生にも負担がかかる。

この日サンボーさんは子供達と一緒に羊やヤギをある場所に連れてきた。
水を飲んでいるというよりも、何かを舐めているようだ。
月尾「草のないところで何を食べているのですか?」
サンボー「ホジルを食べている。
この辺りでは春になると地表に出てくるが、夏は雨などに溶けて見つけにくくなっている。」
さまざまな種類のミネラルが含まれているホジル(鉱塩)、サンボーさん達もミルクティーに入れている。
サンボー「ホジルは動物達にとって大切なミネラル補給源。
またホジルを食べないと、胃の働きが悪くなる。」
家畜達の体調管理のために、月に1度は連れてくる。
サンボーさんはこのような場所を子供や孫達と巡りながら、草原で家畜と共に生きる知恵を伝えている。
日が落ちて子供達と家畜が帰ってきた。
外敵から守る柵に追い込んで1日の作業は終わる。

夜、サンボーさんが何かを始めた。
傍らで孫達がじっと手元を見守る。
サンボーさんのやること全てが大人になった時の財産になる。
サンボー「しっかり縫っておかないと切れてしまう。
狩の途中で鞍帯が使えなくなったら大変だろう?
何度も何度も繰り返して縫うんだ。
自分を守るためにすることなんだぞ。」
サンボーさんと孫達の触合いは、夜更けまで続く。

月尾「ダルハドの人々は、全く間仕切りのない広いゲルで3世代、場合によっては10年近い人々が一緒に生活している。
個室に慣れた現代日本人には、恐らく息のつまる生活だが、このゲルで集団生活する作法や長年の民族の伝統が、親から子へ、子から孫へ伝えられ、それが社会を維持する基礎になり、文化を伝承する装置になっている。
さらに何軒かのゲルが一体となるホトアイル、さらに数100mから数km離れた地域のゲルの人々とお互いに助け合い、日常的に交流している。

日本でもほんの数10年前まではこのような社会構造で生活していたが、現代では1軒の家に親子だけ、場合によては老人が1人だけという生活が普通になってしまった。
それは社会を維持し、文化を伝承する家が崩壊していくことであり、さまざまな社会不安の原因にもなっている。
現代でも大家族制を維持しているダルハドの人々の社会を眺めながら、私達は日本の社会の構造をどのようにしていくかを考え直すべきではないかと思う。」


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乳製品作りの知恵
ダルハド盆地の夏、この地域に暮らす人々の食事には、遊牧民族ならではの知恵がある。
冬場の主食は肉だが、冷蔵保存ができない夏には干し肉を使う。
細く砕いてお湯でもどし、スープのダシのようにする。
これに小麦粉でうった麺を入れたものがGuriltai Shul。
夏の間は肉料理はたいしたものが作れない。
そこで主食となるのが乳製品。
夏は家畜の乳が豊富にある。
それを余すところなく利用し、様々な加工品にしたものを"白い食べ物"と呼んでいる。
まず朝搾った牛乳を大鍋に移す。
温めながらよく泡立てる。
それを1晩かけて冷やすと脂肪分が分離して固まる。
これはズーヒーと呼ばれ、パンにぬって食べる。

ズーヒーを取り除いた液体は容器の中へ。
そこへ乳酸菌を少し加えて1晩置くと、発行してタラグ(ヨーグルト)になる。
タラグが発行しすぎて酸っぱくなったら再び火にかけてじっくりと煮詰めてゆく。
それを布にいれて1時間ほどかけて水分をきる。
さらに上から重石をのせて1日かけてしっかり絞りきる。

これを天日で乾燥させると酸っぱくて硬いアーロール(Aaruul)(チーズ)の出来上がり。
アーロールはその昔チンギス・ハーンの軍隊も携帯食にして戦地へ赴いたと伝えられている。

牛乳からお酒も作る。
シミンアルヒ(Shimiyn arkhi)、材料は牛乳を10日ほど発行させ、ヨーグルト状にしたもの。
これに手製の蒸留装置をかぶせる。
火にかけて数分すると、酒が管を伝いおりてくる。
手に入る材料を無駄にせず、様々に加工して食べる知恵、それが遊牧民の命を何1000年もつないできた。

月尾「14世紀初頭、中国で出版された経典に"身土不二"という言葉が登場する。
それは人間の身体と環境は一体で、自分が生活する場所で作られたものを食べるのが健康に1番良いとする考え方。
これは外国旅行をした時のことを考えると明らか。
旅先で慣れない食べ物を食べたり、慣れない水を飲んだりすると、下痢をしたり体調を崩したりするのは身土不二ではないから。
ところで現在日本の食料自給率は40%だが、それを補うために数1000km離れた場所から食料を輸送してくる。
そのため食料の重量×輸送距離=フードマイレージは、世界1の数字。
これは輸送や冷凍に大量のエネルギーを使い、そのため二酸化炭素を排出することでも問題だが、身土不二という点からも問題。
ダルハドの人々の食事を見てみると、夏場には"白い食べ物"と言われる自分達が飼っているミルクを加工した製品だけで、調味料も野菜もないたいへん質素な食事。
しかし身の周りの食材だけで生活しているという点では、まさに身土不二を実現しているのではないかと思う。
日本で多くの国民が身土不二を実現することは不可能だと思うが、それほど食料が豊かではない地域でダルハドの人々がそれぞれの季節の食材を使い、大変バランスのとれた食事をしていることを考えると、このようなことを参考にして、日本のこれからの食生活を考える必要があるのではないかと思う。」


carmikeシネマスーフォールズ

季節ごとに移動を繰り返す遊牧民の住まいの知恵
ダルハド盆地に住む遊牧民は、1年に4〜5回住まいを移動する。
季節ごとに生活の場を変えるのだ。
夏営地にて、月尾「どうしてこの場所を選んだのですか?」
サンボー「牧草がたくさんあるから。
私達遊牧民は家畜を最優先に考える。
良い場所に住まないと家畜は太らない。
牧草が多く生え、水がある場所を選べば、家畜はほどよく太る。
広くて草が良く生える場所が家畜には最適。
秋になるとここに残っている草は乾燥してしまう。
しかし秋営地には高く伸びた草があるので、家畜達は勝手に移動してゆく。
私達はそれを追いかけて移動する。」
夏場は1年のうちで家畜がもっとも草を必要とするので、広大な牧草地にゲルを建てる。
夏営地、背後には薪をとる森や水のある暮らしやすい場所。
夏の場所から10kmほど離れた秋営地は、広い草原ではなく木立に囲まれた池のある場所。
月尾「今見るとあまり草はありませんね。」
サンボー「秋にはもっと伸びて15〜40cmくらいになる。
人や家畜が長く生活していた場所に生えた草が一番伸びる。」
家畜や人が排泄したものも草原の再生になくてはならない。

冬場には零下40℃にもなるため、四方から風が入りにくい窪地に住まいを移動。
小さな家畜は木造の小屋で飼い、秋に溜めておいた干草で冬を越す。
季節の変化に合せて住む場所を柔軟に変える遊牧民暮らしは、自然の恵みを根絶やしにしない知恵でもある。
遊牧は移動が宿命、そのためゲルは簡単に引越しができるように造られている。
解体にかかる時間はわずか30分。
全ての家財道具を運び出しても1時間もかからない。
そして何よりも特徴的なのは、家の跡に全くダメージが残らないこと。
床下だった場所にも来年はまた草が青々と生い茂る。

組み立て、最初は出入り口、日の光が入りやすい方向に向ける。
続いてハン(壁)、折りたたみ式になっている。
交差した部分をとめるのはラクダの皮、他の動物の皮より滑りがよく丈夫。
開いた格子を紐で結んでゆく。
このゲルは直径およそ8m。
続いて屋根、中心の天窓は煙のはき出し口にもなる。
天窓の周りの穴に、梁となる棒を差し込み、反対側を壁に紐で固定する。
これでゲルの骨組みが完成。
ここまで組み立てるのにわずか20分。
部材は細いが風でも倒れない。

サンボー「柱の模様はそれぞれの家で違う。
これはウルジーと呼ばれる吉祥模様
馬が生活の基盤となっているモンゴル人の幸福と繁栄を意味している。
周囲に描かれているのも吉祥模様で、長寿を意味している。」
月尾「真ん中にぶらさがっている紐は何ですか?」
サンボー「手綱、結婚式で新しいゲルと共に新婚夫婦に贈られる。
新しい家庭がうまくいくようにという願いがこめられている。」
手綱の先も幸運を呼ぶ吉祥模様になっている。

続いて外装、大きな布をかぶせる。
断熱材として使われるフェルトは羊毛を何度も押し固めて作った手製。
これを屋根に載せる。
最後に雨よけ用の布で全体を覆い、ロープで固定して出来上がり。
完成までに要した時間は45分ほど。
構造が単純なので解体や組み立てに時間をとらず、修繕も容易。

室内は入り口から見た正面が家長の座る場所。
向かって左手が男性のスペース、右手が子供と女性のスペース。
台所用品も女性の側に置くのが決まり。
仕切りがなくても実に機能的にできている。


月尾「このゲルは夏も冬も同じものを使うのですか?
サンボー「夏用冬用の区別はない。
しかし夏の間は風が強いので、壁のフェルトを天井にのせる。
そうすることで壁が薄くなり、中は涼しくなる。
それでも暑い時は、風を入れるために風上側の裾をまくり上げる。
冬寒い時はハヤブチと呼ばれる風除けを使う。
フェルトや綿の帯で、ゲルの周りを囲む。
さらに乾いた家畜の糞などで周りを押さえ込む。」
ゲルは実にシンプルな造りだが、どんな環境にも耐えうる。

月尾「最近日本でも地産地消への関心が高まっているが、たとえば住宅について考えてみると、海外から輸入した鉄鉱石や石炭で作った鉄を使い、木造住宅の場合でも、日本の木材自給率が20%程度であるため、多くは北米やシベリアから輸入した木材で作られている。
日本で地元の木材を使って木造住宅を作る場合と、輸入した木材で建てる場合を比較いしてみると、後者は大量の輸送エネルギーを使うため、二酸化炭素が7倍も排出されると計算されている。
ゲルについて考えてみると、その壁を造る構造材料は森林の木材を使い、構造材料同士を結びつける紐は自分達の飼っているラクダの皮を使い、それを覆う材料は自分達の飼っている羊の毛で作ったフェルトを使う。
それだけでhなく、日常生活においても床を掃くホウキでさえこの周辺の潅木で作ったものを使っている。
これらはもはや地産地消というよりは、自産自消といってよいのではないかと思う。
そしてその内部は暑い夏でも寒い冬でも快適に過ごせるような工夫がされている。
モンゴルのおよそ200倍の密度をもつ日本で、完全な地産地消をすることは不可能だと思うが、最近耐震性能や耐火性能に優れた木造住宅も開発され、日本の気候条件に合せた伝統的な住居と先端的な技術を融合した住宅も開発されている。
このような日本の技術を駆使して、新しい地産地消を高密度社会の中で実現してゆくということも日本に課せられた課題ではないかと思う。」

全てを無駄なく活用する遊牧民の知恵
遊牧民達の生活には、全てを余すところなく使う文化が受け継がれている。
たとえば羊の毛は重要な収入源だが、それ以外にも様々な利用法がある。
サンボーさんの奥さんが、落ちているクズを集めている。
羊の毛を買いに来る人のため、またこれでフェルトを作るのだという。
羊毛のクズは編めば丈夫な紐にもなる。
子供達が拾い集めているのは乾燥した家畜の糞。
良質な燃料になる。
主に使われるのは薪だが、植物の繊維質を多く含んだ糞は、薪よりも長くゆっくり燃え続ける。
羊のクルブシの骨は子供たちの遊び道具。
遊牧生活は2000年もの間こうして支えられてきた。
月尾「日本では農業や遊牧というと子供が後を継がず、都会に出て行ってしまうことが増えており、農家の人は悩んでいるが、サンボーさんの家ではどうですか?」
サンボー「私達にはこれしかない。
ここで生まれ育った者はずっとここの暮らしに従ってきた訳で、新しい家族を作ってここを離れても、必ず受け継いだ伝統に従い、家畜を追って生きてゆく。」
月尾「幸せな生活で、何も悩むことはないようなのですが・・・」
サンボー「私はこの土地で71年という時を重ねてきた。
穏やかな毎日で特に心悩ませることもなく、実に幸せな暮らしだったと思っている。」
月尾「ぜひこの生活がずっと続くことを祈っています。」


月尾「30数年前、ブータン王国のJigme Singye Wangchuck前国王が提唱したGross National Happiness(国民総幸福量)という概念(国家は経済の発展以上に国民の幸福を目指すべき)が注目されている。
幸福は人それぞれなので、本来計算できないが、最近ロンドンにあるNew Economics Foundationというシンクタンクが、Happy Planet Index(幸福惑星指標)という名前で環境との強制に重点をおいた幸福度を世界各国について計算している。
これは国民の生活満足度、平均寿命、エコロジカルフットプリント(国民の生活が与えている環境負荷)を基に計算したもの。
結果、1位:バヌアツ 2位:コロンビア 3位:コスタリカ 4位:ドミニカ 5位:パナマなど、小さな国々が上位を独占し、アメリカは150位、ロシアは172位、日本は95位。(2006年発表)
いわゆる大国がいずれも低い順位になっている。
モンゴルは56位だが、これは遊牧生活のために広大な土地を使い、エコロジカルフットプリントの値が大きくなっているせいだが、多くの人々はこの広大な草原で幸福な生活を送っている。
これまで私達は資源、土地、食料、水などをより多く使えることができるようになることが幸福だと錯覚してきた。
しかし地球規模の環境問題に直面している現在、新しい座標軸によって従来とは違う幸福の基準を探してゆくことが重要ではないかと思う。」



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